カレル大学第一医学部から
ドイツの医師へ

言葉の壁を越え、夢を現実にした脳神経外科医・Oginoさん

英語もドイツ語もゼロからのスタート。
それでも「自分の意志で決めた道」を信じ、彼女はチェコへと旅立ちました。
そして今、ドイツの病院で脳神経外科医として挑戦を続けています。
海外で医師として生きるということ――。
今回は、彼女が医師としての道を切り拓くまでのリアル、就職活動での苦労、
そして働き始めてからの日々の様子を伺いました。
彼女が大切にしている信念とは。

profile

脳神経外科医

Oginoさん

カレル大学第一医学部 2024年卒業

東京生まれ横浜育ち。東京の私立高校を卒業後、英語のバックグラウンドも特にない中、「カレル大学第一医学部の一期生として学びたい」とチェコへ飛び立ちました。そして2024年7月、念願の卒業を果たし、2025年1月よりドイツで脳神経外科医としてキャリアをスタート。

合格した瞬間から、
次の挑戦は始まっていた。

「チャンスは、準備した人に訪れる」――
日常の延長線上にある、海外で医師になるための努力。

元々医学部への進学を希望していましたが、高校3年生の受験直前の1月頃に新聞記事でハンガリーとチェコの医学部を知りました。純粋な好奇心や新しい世界を見てみたいという思い、そしてプラハの美しい街並みに惹かれ「カレル大学第一医学部の一期生として学びたい」という思いを強くしました。

6月にチェコでの最後の国家試験を合格したその日から、就職活動を開始しました。書類提出の準備、病院探し、見学などを始め、5年生のときに、実習に行った病院から8月頃に内定をいただきました。その後は、ドイツの医師免許取得に必要な医療ドイツ語試験や書類審査を経て、1月から勤務を開始しました。

喜びよりも先に来たのは、
「不安と責任」だった。

理想の未来は、恐れを超えた先に。
それでも、歩みを止めなかった理由とは。

卒業後は、日本以外の場所で働きたいという希望がありました。ドイツを選んだ理由は、EU内で外国人医師が働くのに「現実的」な選択肢であったこと、そしてチェコの大学の先輩がドイツで働いているという実績があったためです。さらに、厳しい環境に身を置くことが成長につながると信じており、それが結果的に良い医師になるために必要なことだと考えています。

ドイツ語圏の脳神経外科は狭き門であり、就職活動は予想通り厳しいものでした。応募しても、定員がいっぱいで断られることもあり、不安も大きかったです。内定が出た時は、もちろん安心しましたが、それ以上に「本当に自分にやっていけるのか」という恐怖の方が大きかったです。病院で働いた経験もなく、ドイツ語も完璧でない中で、自分が思い描いていた夢ではありましたが、いざ現実となると、プレッシャーや不安でいっぱいでした。

言葉の壁を越えて、
心でつながる医療

不安だったドイツ語の診療も、今では笑顔で話せる時間へ。
「誠実な姿勢」は国境を越えて伝わっていく。

実際に働き始めると、とにかく「毎日全てが大変」に尽きます。新しい知識を学びながら、ドイツ語も集中して聞き取らないといけないので、常に気を張っているため、家に帰ると心身ともにクタクタです。職場は概ね、『仕事はできているから』と、ドイツ語が上手くないことに寛容ですが、たまに呆れられたり、ドイツ語ができないねと面と向かって言われたりすることはあります。それでも「昨日よりも成長した自分でありたい」といつも思っているので、この環境に適応することで能力が伸びていく実感があります。

先生方の中には「オペのアシストが上手いね」「時間が経てば良い脳神経外科医になれる」と期待して励ましてくれる方もいます。また、外国人の先輩研修医の先生が頼もしく仕事をしている姿を見ると、辛くても頑張ろうという気持ちになります。ドイツ人の患者さんとのコミュニケーションも、当初は不安でしたが、毎日回診で話す中で、仲良くなる患者さんや、ご家族の話をしてくださったり、退院する前に私と話したい、と看護師さんに伝えてくれた患者さんなど、言語の壁はあっても、誠意は伝わるものだと嬉しくなりました。

Time Schedule

医師としての一日

5:30
起床
7:00
回診
8:00-9:00
カンファレンス
9:00-15:30
オペのアシスト、病棟業務
17:00-18:00
残業(定時の15:30を超えることが多い)
22:00
就寝(オンコールで深夜まで手術の日もある)

勉強の合間には、毎日欠かさず、映画鑑賞、読書、ドラマ鑑賞など、一人でできることを楽しんでいました。また、最初の3年間は趣味として、社会人向けの合気道クラブに入り、チェコ人の方と一緒に合気道の練習をしていた時期もありました。

チェコ医学部を目指す方へメッセージ

他人の正解ではなく、“自分の答え”を。
その強さが、未来を切り拓く力になります。

医学部に入ってからは、まず「勉強に対するハードル」をできるだけ下げる工夫を意識してください。 毎日10時間机に向かい続けるのは大変なことです。もし机に向かうのが辛ければ、解剖学の写真を携帯に保存してソファーやベッドの上で眺めるだけでも構いません。「勉強しているような、していないような」曖昧な時間でも良いので、医学に長く触れ続ける工夫が重要です。

そして、6年間を乗り切る上で最も大切なのは、義務ではなくても「必ず講義に出ること」です。 口頭試問では、講義で先生が話した内容こそが正解となります。スライドを覚えるだけでは不十分です。先生の言葉を一言一句、まるで「事件調書」のように全て手書きで書き出し、その文章ごと完璧に覚えること。これは教科書を深く読み込むこと以上に、進級するための鍵となります。 また、「講義に行きなさい」と言われたら素直に行くなど、周りのアドバイスを受け入れる力や、自分の実力を客観視する冷静さも、留年や退学を避けるためには不可欠です。

しかし、勉強の仕方や将来の選択に関してアドバイスを参考にすることは大切ですが、最後はたくさん考えて行動し、「自分なりの正解」を見つけることを忘れないでください。 誰かに勧められた道であっても、辛い思いをするのは自分自身であり、その人があなたの人生を一緒に背負ってくれるわけではありません。逆に反対されたとしても、挑戦しなかったことを後悔するのは自分です。

だからこそ、日々の学習では先人の知恵を素直に借りつつも、自分の人生の選択は他人に委ねず、自分で決断してください。そして一度決めたら、それをやり通す強い意志を持ち続けてください。

「英語もドイツ語もゼロから」のスタート。
就職活動の不安、そして内定後に感じた「自分にやっていけるのか」という恐怖。
ドイツの臨床現場での、言語と知識の壁。
インタビューを通して見えてきたのは、数々の困難に直面しながらも、決して歩みを止めなかった彼女の姿でした。
不安も迷いも、成長の証。 昨日より強く、今日を生きる。
― Oginoさんの挑戦は、これから医師を目指す人たちに、国境を越えた勇気を与え続けています。